開演前の受賞者控室で、松山が田中の元へあいさつへ向かった。立ち上がった田中に「賞金王おめでとうございます」と声を掛けられると、緊張でこわばった表情が緩んだ。「ありがとうございます」。差し出された右手を、力を込めて握り返した。
「種目は違うけど、田中さんはトップアスリート。ああいう活躍をするには、それだけ努力をしている。でなきゃ、あんな記録を作れないし、感動を与えられない。自分も世界で活躍して感動を与えるプレーができるように、来年から頑張っていきたい」
今季開幕24連勝の大記録を打ち立てた右腕との再会に、興奮を隠しきれなかった。
2011年4月にKスタでの楽天・オリックス戦で始球式を務めたのが縁で、食事を共にしたこともある2人。楽天が日本一に輝いた日本シリーズ第7戦は、テレビ画面にくぎ付けになった。田中が登場した場面では興奮から鳥肌が立った。自分も人の心を動かせる選手になりたいと心に誓った思いが、この日、また大きく膨らんだ。
松山は野球が好きで、遠征先ではキャッチボールがリフレッシュ方法の一つ。普段から野球選手の身体能力の高さに注目している。「緊張してあまりしゃべれなかった」というものの、2014年からそろって世界最高峰の舞台に立つ2人は親交を深めた。
今年は海外メジャーの全米オープンで10位、全英オープンで6位に入る活躍を見せた。来季が米ツアー参戦6年目で昨年フロリダ州オーランドに家を購入した宮里美香には、ホテル暮らしでなく米国内に拠点を構えることを勧められた。
田中の隣に座った壇上で、来年の目標を迷わず言い切った。「アメリカで勝ちたい。メジャーで勝てるよう頑張ります」。プロ転向時に公言した海外メジャー全制覇へ、日本最強ゴルファーが日本最強右腕の存在を刺激に世界どりを目指す。
◆松山英樹(まつやま・ひでき) 1992年2月25日、愛媛・松山市生まれ。21歳。4歳からゴルフを始める。高知・明徳義塾高で08年全国高校選手権優勝。東北福祉大1年の10年、アジアアマ選手権を制し、日本人アマ初のマスターズ切符獲得。翌年のマスターズは27位でローアマ。同年の三井住友VISA太平洋マスターズでツアー史上3人目のアマチュアV。今季は4勝をあげて賞金王。180センチ、83キロ。家族は両親と姉、妹。