素直にはにかんだ。吉川は「僕が選ばれていいのかな、というのが、本当の気持ち。不思議な感じです」と胸の内を漏らした。
戸惑うのも当然だ。高卒新人だった2007年に4勝を挙げたが、昨季まで3年連続白星なし。「去年は午前中にファームの表彰で選ばれ、来年は1軍のコンベンションに出たいと思っていた」。飛躍を期した6年目。チーム最多14勝で、最優秀防御率(1・71)のタイトルに輝いた。新入団を除き、前年0勝からのMVPは両リーグ初。24歳シーズンでの受賞は、セパを通じて03年の阪神・井川慶(現オリックス)に並ぶ、左腕最年少となった。
背中を押してくれた栗山監督に感謝を伝えた。「今年ダメなら、俺がユニホームを脱がす」という厳しいムチの中に、「四球を出しても代えないから、腕を振ってこい」という信頼感がにじんだ。「あの言葉がないと、四球で自滅していたと思う。シーズン通して真っすぐで押せた」と頭を下げた。精神的に弱かった自分と決別。最速152キロの直球で打者を牛耳った。
報知プロスポーツ大賞とのダブル受賞には、「僕にはもったいない」と謙遜した。それでも、球団では06年ダルビッシュ(現レンジャーズ)以来の栄えある大賞。普段は控えめな発言が多い男だが、「ダルビッシュさんの穴は埋められないと思うけど、少しでも近づきたい」と言い切った。
今季終盤から痛めた左肘内側側副じん帯の炎症で、当面はノースローだが、来季の目標は明確にある。「今年1年で終わらないように、2、3年と続くようにしたい」と200投球回を掲げた。左腕には、ダル不在の侍ジャパンへの期待も大きい。「(代表への)思いはありますけど、肘の状態があるので、何とも言えない。変な違和感は残っているけど、年内には投げたい」と見通しを語った。栄冠を励みに、来年3月のWBCに望みをつなぐ。
◆吉川光夫(よしかわ・みつお) 1988年4月6日、福岡市生まれ。24歳。広島・広陵高で2年春からエースも甲子園出場なし。2006年高校生ドラフト1巡目で日本ハム入団。今季は4月8日のロッテ戦(QVC)で4年ぶりの白星を挙げると、14勝5敗、防御率1.71。オールスターにも初出場。177センチ、75キロ。左投左打。家族は妻と2男。