だが、不運が重なった。墨田区本所の高砂部屋から新橋第一ホテルへ向かう道路は大渋滞。ひいきの飲み屋が何軒もある銀座周辺なら「目をつぶってても分かる」という横綱は「運転手さん、こっちの道の方が早いんだって!」と、焦る車内でナビゲーターまで買って出た。やや遅れて到着すると、式次第の進行も、約20分の遅れ。控室で金本、長谷川ら他の受賞者と談笑しながら出番待ちしているところで、マネジャーから声がかかった。「横綱、残念ですが、お時間が…」「え!? もうそんな時間か!」最強横綱は後ろ髪をひかれるように会場を後にした。
売れっ子ならではの“悲劇”。表彰式では師匠の高砂親方(元大関・朝潮)が代理受賞し、事なきを得たが、北の湖理事長(元横綱・北の湖)をはじめとする日本相撲協会執行部や各界の著名人にあいさつできずに引き揚げたことに恐縮しきり。「残念だけど次の約束もあるので。偉い人がたくさん来てるのに『また勝手に帰った』なんて思われないように、報知には感謝してますってちゃんと書いといてよ」と走りながら苦笑い。今年、相撲史を塗り替えた朝青龍は、年の瀬になっても、まだ走り続けている。
◆朝青龍明徳(あさしょうりゅう・あきのり) 本名・ドルゴルスレン・ダグワドルジ。1980年9月27日、モンゴル・ウランバートル市生まれ。25歳。高砂部屋。97年に来日し、高知・明徳義塾高に相撲留学。99年初場所、初土俵。2001年初場所、新入幕。02年名古屋場所後に大関昇進。03年初場所後に初土俵から所要25場所の最速記録で横綱昇進。優勝15回(歴代単独5位)。殊勲賞3回。技能賞3回。得意はもろ差し、寄り。家族はタミル夫人(25)と1男1女。184センチ、144キロ。