表彰式の主役は、間違いなくユタカだった。黒のスーツに身を包み壇上に登場すると、会場は割れんばかりの拍手に包まれ、司会者の質問も集中した。
ディープインパクトでの3冠達成(皐月賞、ダービー、菊花賞)。デビューから7戦負け知らずのサラブレッドは、ヒーロー不在の世の中で社会現象となった。25日の有馬記念では“4冠”に挑戦。「無敗で有馬を勝った馬はいない。達成して、その時に馬の背中にいられたら最高ですね」と力を込めた。
原監督ならずとも興味津々の人馬。ゴルフの片山晋呉からは「武さんは国民の期待を背負う。大変じゃないかな」と気遣われたが、本人は余裕しゃくしゃくだ。「僕が走るわけじゃないんで…。馬が(しっかり)走ってくれると思います」相棒への信頼が揺らぐことはない。
この日、有馬記念の枠順が決定。ディープインパクトは3枠6番からのスタートになった。「ダービーを勝った時が3枠5番。同じ赤い帽子でいいんじゃないかな。外めがいいとは思っていたけど、大丈夫。“6”は僕のラッキーナンバーだから」6番は、騎手デビューした87年に初勝利を挙げた思い出の番号。数々の記録の“第一歩”となった数字だ。
5馬身差で圧勝したダービーは「5」、折り合いを欠きハラハラさせた菊花賞は「7」。どちらも経験した今、その中間の「6」なら、心配することは何もない。「今はとにかく、有馬記念のことで頭がいっぱい」と言いながらも「よく眠れますよ。特別なことは何もない」と言い切った。
武の有馬記念制覇は、引退レースで復活した90年のオグリキャップが最初で最後。2着が6回と悔しい思いの方が多い。だからだろう。「ホント、いい結果を出したいよね」短く抱負を言い残して会場を去った。思い描くのは、この1年を象徴するような圧勝シーンのみ。武豊とディープインパクト。ダブル主演の“有馬劇場”が間もなく始まる。
◆武豊(たけ・ゆたか) 1969年3月15日、京都府生まれ。36歳。87年のデビュー以来、数々の記録を塗り替えて来たトップジョッキー。GI51勝、重賞217勝は、いずれも史上最多。先週までJRA通算2689勝。今年は210勝を挙げ、自身の持つ年間最多勝記録にあと「1」と迫っている。量子夫人は元タレント。