以下、隣にいた中嶋を交えた会話を再現してみると…。
青木「何にもねえ。考え過ぎないことだよ」
中嶋「この人は何も考えていないから」
青木「いいたいこといえばいい。ビビっちゃダメ。ゴルフだってそう。しゃべって分かんなかったら、日本語で言えばいい。それで相手が“I don’t know”(分からない)って言ったら“me、too”(私も)って言えばいいんだよ。それで立派に会話は成立するんだから」
松井「ありがとうございました」
1983年にハワイアンオープンを制し、日本人男子として米ツアー初勝利を挙げた成功者からのアドバイス。「遠慮せず、臆(おく)することなく飛び込んでいってコミュニケーション取れるようにしたい。日本語と同じようには話せないわけだから不安はありますが、何とか身に付けて消化していきたい」新庄からプレゼントされた字幕付きDVD50本と静電気防止スプレーもこの日、関係者を通じて自宅に到着。英語習得へ、準備は整いつつある。
また、来年2月下旬には、ヤンキースのキャンプ地となるフロリダ州タンパで青木はシニアツアーに参戦する。「見に来いとは言えないから、オレがグラウンドに行くよ」とキャンプ視察を約束。「ぜひお願いします」と松井も快く受け入れる構えだ。
2冠王、MVP、日本一、そして衝撃のメジャー移籍。激動の2002年も、この日が最後の公式行事となった。「自分が今まで養ってきたものを全部出し切ろうと思ってやってきた1年でした。3冠王は取れなかったけど、日本一になれたし、いいシーズンだったと思います。忘れることのできない1年でした」と感慨深げに振り返った。
今後は30日に故郷・石川に帰省、年明けにはニューヨークへ渡ってヤンキースと正式契約を結び、メディカルチェックを受けた後、入団会見の運びとなる。一時帰国してG球場で自主トレを行い、来月下旬にはNYに上陸。2月早々にはキャンプ地に乗り込む。
表彰式後の会見で、松井は堂々と胸を張った。「新たなスタートを切る1年。予想はつかないけど、一歩ずつ、階段を上っていきたい。強い気持ちで乗り切っていきたい」青木だけでなく、サッカーの高原をはじめ、各界のヒーロー、ヒロインからもエールを送られた。夢への旅立ちを前に、胸に響く言葉をかみ締めた。
◆松井 秀喜(まつい・ひでき) 1974年6月12日、石川・根上町生まれ。28歳。93年、石川・星稜高からドラフト1位で巨人入り。98、2000年に続き、今季も本塁打と打点の2冠を獲得。巨人では25年ぶりの50本塁打で、3度目のMVPにも輝いた。186センチ、95キロ、右投左打。