どよめきと同時に、感嘆のため息が漏れた。華やかなステージの中でも、ダルビッシュの存在感は圧倒的だった。「いろんな人に突っ込まれましたね」数日前に染めたという茶髪、そして、全身黒光りのきらびやかなファッションが、会場に居合わせたすべての人のド肝を抜いた。
グラウンド外での表彰式出席は自身初めて。その舞台で着用したのがイタリア製の「ハラコ」を素材とした高級スーツだった。“勝負服”には、ほかにも複数の候補があったが「どうせ着るのなら、目立った方がいいでしょう」と、このスーツに決めた。
新たな決意表明でもあった。「パフォーマンスは考えていないですけど、これからは何か面白いことをしたいな、と思っています」野球以外にはファッションを含め、さほど関心を示さなかった男が変わった。ファッションでも常に注目を浴び続けた新庄の後を継ぐ―との意思にも見えた。小笠原も抜け、ダルビッシュはチームの顔としての自覚をしっかりと持っている。
式では思わぬ“ほめ殺し”にもあった。シーズンをし烈に争ったソフトバンク・王監督が「病室のテレビで見ていて、手も足も出ない感じだった。投げるほどに成長した」とうなり、中日・福留も「日本シリーズでは完全に見下ろされていた」と脱帽。ライバルからの絶賛に「心構えがなかったので、びっくりしました」と表情を崩した。
あらゆる栄光を手にした1年だが、若きエースは満足することを知らない。「ストレートをもっと速くしたい。あとは四球で流れを切ったことが多かったので、それも克服したい」力強く来季への抱負を語った。リーグ連覇、そして、連続日本一…大きな期待と使命を背に、ダルビッシュは2007年に挑む。
◆ダルビッシュ有(だるびっしゅ・ゆう) 1986年8月16日、大阪・羽曳野市生まれ。20歳。小学2年の時に捕手として野球を始める。東北高では2年春から4季連続甲子園出場。2年夏に準優勝。04年ドラフト1巡目で日本ハムに入団。2年目の今季は10連勝を含む12勝(5敗)。アジアシリーズMVPも獲得。家族は両親と弟2人。195センチ、85キロ。右投右打。