芸能人の依存症問題と見えない障害との共通点(中)…小林春彦の「花も実もある根も葉もない小話」

小林春彦です。身体機能と脳機能に重複障害を抱える中途障害者です。前回の「芸能人の依存症問題と見えない障害との共通点(上)」における拙記事について、冗長が過ぎる、と長くアディクション(依存対象)から離れている先輩のアディクト(依存症者)からお叱りを受けました。苦い顔で本稿を書いています。私なりに「解決はある」という希望のメッセージのつもりだったのですが。
今回は、アディクトたちに付きまとう健常者からの見られる偏見について考えてみようと思います。
依存症になるのは、社会に適応できない弱い人だという、向上心もなく現実逃避しているから何かに依存しているダメなやつ、が代表的な偏見でしょうか。実際、社会的立場や能力などに関係なく、誰でも依存症になるリスクはあります。
ハリー・ポッターの主人公を演じた英国の俳優ダニエル・ラドクリフ、オーストラリアの水泳の金メダリストであるイアン・ソープもアルコール依存症をカミングアウトしています。アメリカでは、元大統領夫人のベティ・フォードさんら多くの著名人がアルコール・薬物依存症からの回復途上を公表しています。
依存症は、我慢や意志の問題ではなく「病気」です。字面はシンプルですが、この点が最も重要な点であり、誤解されやすい点だとも思います。私も中高一貫の男子校で質実剛健という校風で心身ともに強くたくましく、気合と努力と根性が合言葉みたいな精神論を育む環境で育ったので、この点を大きく誤解していました。
この自分に甘く意志が弱いから、だらしなく止められないのだ、という精神論もひと頃はやった「鬱(うつ)は甘え」的な勘違いです。アルコールにせよ薬物にせよギャンブルにせよネットやゲームにせよ、いったん依存症という病気になると、最初の一回に手を付けると「これ以上はまずいからやめておこう」と思っても止めることができません。自己意志とは無関係の、いわばコントロール障害なのです。
芸能人の飲酒や薬物の依存問題が取り沙汰される時、決まって芸能コメンテーターが誤った根性論を持ち出すことに個人的には嫌気がさします。
アディクトは精神だけでなく肉体が病んでいるという解説は、依存症かいわいに潜入して私が驚いた事実の一つでした。
依存症という病気は、身体のアレルギーと説明されます。
私は体質的にアルコール以外でアレルギーを持っていないのでよく分からないのですが、「花粉症」の人は花粉という「原因物質」によって体内に取り込むと鼻水や眼にかゆみが出るなどの「症状」が出ますし、「金属アレルギー」の人は金属という「原因物質」が汗や体液にふれるとゆっくり溶け出し金属イオンという「原因物質」が体内に入ることで皮膚が赤くなってかぶれたり、炎症を起こすといった「症状」を見せると言われています。また、「そばアレルギー」の人はソバという「原因物質」を体内に取り込むとぜんそく発作やアナフィラキシーショックといった「症状」が表出するそうです。ゆでる蒸気やそば粉の粉塵を吸入するだけでも反応するために、そばアレルギーの人はうどん店に入ることも避けていると聞き、驚きました。
こうして私にはない幾つかのアレルギーについて「体質」と「原因物質」と「症状」を3つ並べてみましたが、問題は、依存症者のアレルギー反応の表出の仕方が極めて特殊だということです。
「アルコール依存症」の人はアルコールが「原因物質」となって体内に入ると「症状」として渇望が、脳という見えない領域に自然とアレルギー反応の「症状」として出る、というのです。最初の1杯に手を付けたが最後。アレルギー症状の渇望が始まると、2杯目、3杯目へと脳からヨダレ汁が出るように無意識の指令が出て、花粉症のように自分の意志とは無関係に必死になって次に手を伸ばしてしまう。それが結果アルコールという酔いの性質上、意識をなくしたり社会問題を起こしてしまう。これが精神だけでなく肉体もまた病んでいる、依存症は病気である、のカラクリです。
解決は最初の一回に手を付けないこと、危ない場所に近づかないことしかありません。ちなみに現代医学ではこのアレルギーを治療することができないとも言われています。このようなアレルギーを持っている人は、アルコールに関しては生まれつきの遺伝性や進行性によるもので、このアレルギーは人類の10人に1人程度の割合で抱えていることが報告されています。
私はたばこやクスリやパチンコは生まれてから一度もやったことがないのですが、もしかすると、他に中毒性の高そうなものが身体とマッチしてアルコール同様に脳のアレルギー反応を引き起こすのかもしれないし、起こさないかもしれない。試しませんが。
もちろん、病気だから窃盗を働いたことも家族の金を使い込んだことも車で人をはねたことも仕方ない、とはなりませんし、チャラにもなりません。病気だからと医者に優しくされることもなければ、安静にしていることも許されません。依存症は「最初の一回に手を付けないため」の新しい生き方が求められるので、最初の一回につながってしまうような怒り・恨み・後悔・罪悪感・恐れを手放すための償いや精神面の大掃除を始めなくてはならないのです。近年よく耳にするキーワードの「生きづらさ」を取り除くため、少なくとも生きることを望むのであれば、医者がこの病気を治せない以上、主体的で過酷なリハビリが死ぬまで続きます。
そういった事情も踏まえたうえで、これだけテレビの向こうとの距離が近くなったいま、私たちは芸能人のやらかしを単なるスキャンダルとして見ている場合ではないのではないかとも思うんですよね。
◆小林 春彦(こばやし・はるひこ)1986年12月17日、兵庫・神戸市出身。31歳。障害者タレント専門芸能事務所「Co―Co LIFE(ココライフ)タレント部」所属(エージェント契約)。高次脳機能障害と両眼の視野狭窄(きょうさく)および左半身の麻痺(まひ)を抱える。普段は白杖と左手に白い手袋を着用。私立三田(さんだ)学園中・高卒。「見えない障害」の問題を訴える渾身(こんしん)の著書「18歳のビッグバン 見えない障害を抱えて生きるということ」を2015年に上梓。見通しの利かない未来に対し光明を放ち奔走を続ける話題の論客。Twitter:@koba_haruhiko