あの時、デストロイヤーさんに4の字固めをかけてもらっていれば…金曜8時のプロレスコラム

スポーツ報知
両国国技館で紹介されたザ・デストロイヤーさんからのメッセージ

 プロレスオールスター戦として話題になった「ジャイアント馬場没20年追善興行~王者の魂~」「アブドーラ・ザ・ブッチャー引退記念~さらば呪術師~」(2月19日、東京・両国国技館)が10日にCS放送 日テレジータス(日テレG+)で放送された。三冠ヘビー級王者・宮原健斗(29)=全日本プロレス=と前IWGPヘビー級王者の棚橋弘至(42)=新日本プロレス=がタッグ対決したメインイベントまでの9試合と馬場さん&ブッチャーのセレモニーが放送されたが、大会当日から放送日までに想定外のことが起きた。

 「白覆面の魔王」として馬場さん、ブッチャーと因縁が深かったザ・デストロイヤー(本名リチャード・ベイヤー)さんが7日(日本時間8日)に米ニューヨーク州北部バファロー郊外の自宅で老衰のため88歳で亡くなったのだ。1963年に初来日し、得意技の「足4の字固め」で力道山との死闘を始め、豊登、馬場、アントニオ猪木、ジャンボ鶴田、ブッチャー、ミル・マスカラスらとともに昭和のプロレス史を彩った。

 ザ・デストロイヤーさんは、馬場&ブッチャー興行に招待されていたが、体調を理由に欠席し、メッセージが紹介された。会場では、懐かしい映像とともに聞き入ったが、これが日本のファンに向けた、最後の言葉になってしまった。

 聞き流してしまった言葉を、放送で再確認した。

 「アブドーラ、我々の血を血で洗う流血戦は、初期の全日本プロレスのドル箱で、エキサイティングな試合で多くのファンを沸かせた」「聖なるリングで流した血と汗、そしてあの興奮は忘れることはできない」「もう一度あの頃に戻ってもう一度試合をやりたい」

 プロレスというビジネスへの誇りが込められたメッセージには、ブッチャーとの2ショット写真と、近影と見られる自宅周辺の芝生をバックに車イスか歩行器のようなものを押しながら立っている、マスクに赤いジャージー姿で笑っている写真、そして。マスクの似顔絵を模したサインが添えられていた。

 放送では「ザ・デストロイヤーさんはこのメッセージを残した後、3月7日(現地時間)に亡くなりました。謹んでご冥福をお祈りいたします」というテロップが流された。

 デストロイヤーさんの試合を取材する機会はなかったが、私服にマスク姿のデストロイヤーさんを取材現場で見かけることはよくあった。心に残っているのは、楽天がプロ野球に新規参入して間もない頃。楽天のGMを務めていたマーティー・キーナート氏が、友人のデストロイヤーさんを楽天の本拠地(現・楽天生命パーク宮城)に連れてきた時だ。

 マスクをかぶった訪問者を、報道陣が取り囲んだ。その時、キーナート氏が私に「酒井さん、足4の字固めをかけられて下さい」と小声でささやいた。あの「うわさのチャンネル」での徳光和夫アナ役は、“絵作り”としては必要だろう、と思って足を差し出そうとしたが、デストロイヤーさんは、「腰の調子がよくないんだ」というようなことをつぶやいて、キーナート氏のリクエストに苦笑して小さく首を振った。あの時、自分からスタジアムの芝生に寝そべって「絵作りだけでもお願いします」と言えなかったことが今になって悔やまれる。

 「足4の字固め」は、小学生でも“まねごと”ができ、足のフックと力の加減によって、素人からプロ級まで、痛さが調節できる不朽の名技。デストロイヤーさんが力道山にかけた足4の字固めと、徳光アナへのそれはまったくの別技ととらえるべきだろう。「決してまねをしてはいけません」と言われながら、まねしたくなる昭和の子どもたちの好奇心をくすぐった「足4の字固め」。足を骨折したお友だちもいたが、それを日本に紹介したザ・デストロイヤーさんに、“永遠のプロレス少年”を代表して感謝したい。(酒井 隆之)

 ◆ザ・デストロイヤーさんのメッセージ全文

 アブドーラ・ザ・ブッチャー。まず、私の長き終生のライバルであるブッチャー。引退セレモニーに参加して直接、話すことができずに残念だ。本来であれば会って話したかったが、ドクターから長距離のフライトは禁止されているので、メッセージを託すことにする。

 アブドーラ、すばらしいキャリアをお祝いしたい。我々の血を血で洗う流血戦は、初期の全日本プロレスのドル箱で、エキサイティングな試合で多くのファンを沸かせた。そしてその試合は、全日本プロレスの発展にも寄与したと思っている。

 アブドーラ、お前の試合スタイルはとてもユニークで誰もまねできない。他にもまねしようしたレスラーはいたが、あのスタイルはアブドーラだけのものだ。

 私と同じように、プロフェッショナルレスリングのビジネスを愛して、誇りと尊敬の念を抱いて、このビジネスを守り続けた。そして私たちはできることならレスリングを永遠にやりたかった。私はレスリングをできる限り長い間やってきた。お前も同じような気持ちでできるだけレスリングを長くやってきたことと思う。

 ウソは言わない。聖なるリングで流した血と汗、そしてあの興奮は忘れることはできない。観客の歓声までも。でも、お前はラッキーだ。なぜならば自分のキャリアを振り返ってみてくれ。そこにはみじんの後悔もないからだ。そしてプロレスリングの最高の階級で、お前の本当に偉大なる功績が燦然と輝いている。

 お前を一生、忘れない。そしてもう戦えないことはさみしい。あの試合が懐かしい。できることなら、もう一度あの頃に戻ってもう一度試合をやりたい。お前もきっと同じ気持ちだろう。引退おめでとう。永遠のライバル。ザ・デストロイヤー

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