渡辺明2冠、21年ぶり12戦全勝でA級昇級 将棋順位戦B級1組 「A級は鬼門。今までと同じ戦い方でいいのか、という気持ちで」

将棋の第77期順位戦B級1組の最終局が14日、東西の将棋会館で一斉に行われ、既にA級復帰を決めていた渡辺明2冠(34)=棋王・王将=が斎藤慎太郎王座(25)に先手番の87手で勝ち、12戦全勝で有終の美を飾った。B級1組では、1997年度の丸山忠久九段(48)以来21年ぶりの全勝昇級となった。
伸び盛りの若手と長年の強豪がひしめくB1は「鬼の棲み家」とも称される難関だが、渡辺2冠は年度を通して圧倒的な力を示した。歴代5位のタイトル通算獲得21期を誇る第一人者も、前期はまさかの不調に陥り、A級から初陥落。デビュー後初めて勝率5割を下回った。
ところが、年度が変わった春先からは、自身最多の15連勝を含めて37勝10敗と完全復調。1~2月の王将戦7番勝負では久保利明王将(当時、43)に挑戦し、開幕4連勝で王将を奪取。2冠に復帰した。
以下、感想戦終了後の応答。
―12戦全勝でのA級復帰となった。
「昇級(9連勝した時点で確定)した後は全勝を狙ったわけではないので、感慨…というのはないですけど、出だしで連勝スタートを切れたので、途中からは昇級、復帰を第一目標にしていました」
―狙ってなくてもB1全員に勝つことはものすごいこと。
「昇級が決まってからの将棋はプレッシャーがないので価値があるかといったら微妙ですけど…。9連勝で昇級を決めるまでの道のりは大変だったので、結果には満足しています」
―今日はどんな気持ちで臨んだか。
「相手は昇級に絡んでいたので、普通に指そうと思っていました。途中で後手の方がまとめづらい局面になって、先手の利がある将棋になりました」
―来期は再びA級で指す。
「B級1組と比べると局数が少ない(9局)ですから一局の重みは違いますし、間隔も長いのでスケジュールも違ってきます。今年とは違う感覚で指すことになると思うんですけど、復帰1年目ですからね…いきなり挑戦を目指すのはなかなか…どうかなと思うので。出だしの何局か指してみて、目指すところは決まってくるのかなと思います」
―A級という場所について。
「A級で何期もやってきましたけど、今まで実績を挙げられてない(A級優勝による名人挑戦の経験はない)ですからね。自分にとっては鬼門になっている棋戦。今までと同じようにやって今までより結果が出るとは思いづらいところはあります。20代の時も挑んで駄目だったのに、今、同じようにやって良い成績が残せるのかという疑問は常に持っています」
―良いイメージで臨める。
「今期の成績がA級に関係するとは思わないです。前期、降級したことも含めて、自分にとっては鬼門となっているのでどうなるか…。ちょっと今までと同じ戦い方でいいのか、という気持ちでやりたいと思います。今年度と同じくらい勝てれば、理屈上はそれなりに勝てるはずですが、それ(好調)がいつまで続くのかという疑問はありますし、やっぱり流行が変わると勝てなくなることもあると思うので、その都度、置かれた状況で対応したいです。どこを目指すかは分からないところはありますし、A級は…たとえば最初に連敗すると上を目指す感じではなくなってしまいます。何局かやってみて目標を定めていくと思います」
―近年の将棋界でこれほど劇的に復調した棋士はない。要因は。
「作戦的なところで昨年度は追いついていなかった流行に今年度は追いついてきました。戦い方がはっきりしてきて。昨年度、一昨年度は何を軸にしたらいいか分からないところがあったのですが、今年度は軸を固めて指すことができたことが大きな要因だと思います」
―今の状態は長い棋歴の中でも特に充実している手応えを感じているか。
「数字的にどう評価されるのかは分からないですけど、勝率的に言えば、タイトル戦に出るようになってからはいちばんいいですから。そういった意味では、今までの中でも良い状態にあるということは言えるかなと思っています。あとはどれだけ続くか。なかなか続かないとは思うので。今はタイトル保持者の顔触れを見ていても出入りが激しいですからね。どれだけ(今の状態を)持続できるかを来年度の課題として考えています」
―21年ぶりのB1全勝昇級。
「おまけみたいなものなのです。A級は鬼門になっていたので、勢いがついて何かが今までと変わってくれないかな、とは思いますけど(笑)」
―具体的な戦型、戦法面での変化は。
「昨年度は流行っていた将棋への理解が追いついてなかったですけど、流行に追いついて戦えるようになった。相居飛車全般の指し方が変わりましたからね。今は相居飛車の将棋で後手番でも戦えるようになったことが大きい。昨年度と一昨年度は迷いがあったので。公式戦を指しながらスタイルを模索するのは大変なので、軸が固まったのは大きいと思います」