パ6球団合同ビジネス、10年で売り上げ25倍に…試合VR中継も登場 今後の戦略を聞く

スポーツ報知
VRゴーグルを付けた時に広がる画面。球場のあちこちにカメラを設置しており、いろんな席に“移動”できる

 今日からクライマックスシリーズ(CS)が始まるパ・リーグは、グラウンドでは真剣に戦う一方、ビジネス面では協力態勢が深まっている。6球団が出資した「パシフィックリーグ マーケティング社(PLM)」は07年に設立されて10年以上が経過。その間に売り上げは25倍になった。これまでの実績、今後の展望を根岸友喜社長(42)に聞いた。(田中 孝憲)

 例えば病気になって入院した病室で「大好きなチームの応援にもう一度、行きたい…」と願うような人はいるはずだ。もし球場にいるかのような世界に浸れるとしたら…。今までは不可能だったことが、IT技術を使って可能になった。

 近年、仮想現実(VR)技術が発達。必要なのは2万円程度のVR専用機やスマホと合体するゴーグル。PLMが今夏からインターネットストリーミングサービス「パ・リーグTV」で配信を開始した専用動画をグラスを通して見ると、球場のスタンドで観戦している雰囲気が味わえる。球場には専用カメラがネット裏、センター、一塁側などに複数台設置されており、好きな席にすぐに“移動”できる。今CSでも引き続き配信される。

 なぜ、テレビ局ではなくPLMが積極的に新技術に乗り出すのか。根岸氏は「スポーツの価値を増やしたい。球場で見せるのが最大の価値。技術が発達し、それに準ずる疑似ライブ体験ができると信じている。そこにあくなき挑戦をしたい。その一歩目がVRなのです」と説明する。同社は07年に、IT技術で成功しているMLBの組織を参考にして設立された。PLMは現在、各球団の公式サイト制作の受託を始め、インターネットでの試合動画配信など、IT系事業が売り上げの85%を占めている。

 根岸氏は「各球団のサイト運営などは合格点。動画は計画を上回ってきた。買い手プレーヤーが増えてきている」と手応えを説明。07年は2億円だった売り上げが17年には50億円と、25倍に成長した。この金額はNPBの売り上げ額とほぼ同額だ。大きな原動力は、ネットでの配信権。テレビ放送の放映権は各球団が持っているが、ネット向けは15年からPLMが全球団分を管轄した。自社で提供する「パ・リーグTV」のほかに、DAZNなどにライセンスを販売して配信している。これらの技術を生かし、女子プロ野球などの配信事業も受託し始めた。また、PLMとして広告スポンサーを獲得し、各球場に掲出もしている。これらの収益は6球団に「協力金」という形で還元されている。

 一方、セ・リーグではPLMのような統一した取り組みはなくバラバラ。球団自身が稼ぎ、地域貢献もしていく「スポーツビジネス」の視点で、球団ごとに差があるのが現状だ。

 根岸氏は球団経営について「球場は収容数がある在庫ビジネス」と説明。だからこそ、IT技術を使うメリットがあるという。「球場観戦という本来の価値追求には物理的限界がある。ファンの家から距離イコール時間。そうなると、球場から半径50キロとかになってしまう。IT技術を使って疑似ライブ体験ができるようになれば『在庫』が解放される。ただもうけるだけでなく、売った利益は選手や球場に再投資できる」と解説した。

 現在はゴーグルをつけるという不自然さはあるが、すぐに技術が進歩して解決されるはず。根岸氏はIT技術で野球を「リビングに取り戻したい」と夢を語る。そんな日が実現するのも、遠い日ではなさそうだ。

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