第5回受賞者(2003年) 中日・井上一樹

2003年11月29日6時0分 スポーツ報知

第5回受賞者(2003年) 中日・井上一樹
 日本のプロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の表彰式が2003年11月28日、東京・虎ノ門のホテルオークラで行われた。第5回を迎える今回の受賞者は、本拠地のある名古屋市内の病院を訪れ、病気に苦しむ少年少女を励まし続けてきた中日・井上一樹外野手(32)。350人が出席した表彰式には長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督、ダイエー・王貞治監督も顔を見せ、井上選手の“場外アーチ”を祝福した。同選手には安原道夫・報知新聞社社長からトロフィーが贈られた。なお、副賞200万円と阿部雄二賞の100万円の中から200万円が報知新聞社を通じて福祉施設、団体などに寄贈された。
 表情はこわばったままだった。緊張で額に噴き出した汗を、何度も右手でぬぐった。それでも井上は自分の気持ちを何とか伝えようと、声を絞り出した。

 「病院の子供を僕が励ましたということになっています。確かにそう言ってもらえるのはうれしいですけど、逆に僕が病気の子供たちに励ましてもらっているという部分があるんですね。体が元気なのに、打てない、守れないで悩んでいる自分が恥ずかしく思えた。子供たちが笑っているのを見ると、頑張らないといけないと思います」子供たちへの感謝の言葉が自然とこぼれた。

 オフに名古屋市立第一赤十字病院の小児科病棟へ足を運んだ。小さな命の必死の格闘を目の当たりにすると、自分の弱さを自覚させられた。その度に「自分も負けられない」と奮起した。「外で遊べない子供たちのことを考えると、自分の野球の苦しさというのは小さな悩みです。自分が励ましてもらっているんです」だからこそ、このゴールデンスピリット賞は、病気と闘う子供たちの崇高で力強いスピリットにこそささげたいという思いが強い。12月にはそのお礼を込めて、早速、病院を訪れる予定を立てた。

 「子供たちにプレゼントを手渡してあげたい。直接、手渡してもらったという感覚を体で感じてほしいですから」贈るのは中日球団のキャラクターグッズ。小児科病棟には、重度の意識障害と闘う子供たちもいる。それでも、直に触れ合うことで互いの心は不思議と通い合う。「これからは若い選手も連れていきたい。無口な選手もいますけど、何でもいいから声をかけることが大事だということを教えていきたい」ミスターやダイエー・王監督からも励ましを受け、決意を新たにした。この活動をドラゴンズの伝統として後輩へ伝達していくことが、井上のこれからの大きな仕事になる。

 ◆井上 一樹(いのうえ・かずき) 1971年7月25日、鹿児島県姶良郡生まれ。32歳。鹿児島商から89年ドラフト2位で中日に入団。以後、ドラゴンズ一筋に歩み、99年のリーグ優勝時にはレギュラーとしてチームに貢献した。実働11年間で、717試合1968打数530安打、打率2割6分9厘、43本塁打、199打点。家族は和枝夫人(33)と1女。今季推定年俸は5300万円。

 ◇選考委員(敬称略、順不同) 川島広守(プロ野球コミッショナー)、長嶋茂雄(東京読売巨人軍終身名誉監督、報知新聞社客員)、竹下景子(女優)、佐山和夫(作家、日本ペンクラブ会員)、伏見勝(報知新聞社会長)

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