「変わるべきはトップ、あなた自身」自立型組織で帝京大ラグビー部を常勝軍団に変えた岩出監督の哲学

スポーツ報知
今年1月、大学選手権9連覇を達成した帝京大学ラグビー部

 大学選手権9連覇中の帝京大ラグビー部を率いる岩出雅之監督(60)の著書「常勝軍団のプリンシプル」(日経BP、1620円)が話題を呼んでいる。勝ち続ける「組織作りの秘訣(ひけつ)」は、4年生を「神」、下級生を「奴隷」とする旧来の体育会的発想から「自立型組織」へと生まれ変わらせる発想の大転換にあった。日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題が波紋を広げる中、大学スポーツ界の改革に向け、大きなヒントになる一冊だ。(久保 阿礼)

 前人未到の9連覇を達成した帝京大ラグビー部の強さの秘訣は何か―。岩出監督はスポーツ関係者だけではなく、企業経営者からも多くの質問を受けるという。大学ラグビーでは同志社の3連覇が最高だった。帝京大はその記録を大幅に塗り替えていた。企業も「岩出哲学」を取り入れようという発想は当然なのかもしれない。

 「経営者の方は新入社員とジェネレーションギャップを感じているようです。ラグビー部は学生という若い人たちを相手にする組織。モチベーションの上げ方をよく聞かれますね」

 岩出監督は「変わるべきはトップ、あなた自身だ」と答えている。これまでの体育会的発想は4年生は頂点の「神」で、1年生は「奴隷」。下級生はあらゆる雑用をこなし、先輩の命令は「絶対」だった。それが強豪校になればいつしか「勝利至上主義」へと陥っていく。だが、岩出監督はその発想を逆転させた。

 「大学4年間を充実させるにはどうしたら良いのか。そう考えたのが出発点です。ラグビーを通じ、自ら学び成長し、自分で選択して挑戦する。これまでの体育会系的な考え方では時間が足りませんでした。先輩・後輩ではなくフラットな形でも良いかな、と」

 新入生は緊張しながら大学生活を送る。岩出監督は体力的なものだけでなく、心理的・精神的な負担も大きいのではないかと考えた。監督も含め、上級生が自ら練習の準備や掃除などを率先して行う「文化」を作り上げた。

 「目の前の勝ち負けよりも4年間を終えて、社会人としての力をつけられるような環境を作りたかった。次の社会で活躍できるような文化を作る。それが大学スポーツの意義ではないでしょうか。意思疎通においても先輩が指示するだけではなく、下級生からも質問させます。論理構成も身につくし、互いの理解も深まります。リーダーシップはどの選手が持っていても良い。それが、勝負事にもつながってきますから」

 日体大ラグビー部で主将として活躍。滋賀県立八幡(はちまん)工高で7年連続で花園出場に導き、1996年に帝京大監督に就任した。だが、早大、明大、関東学院大など強豪校を前に、勝てない時期が続いた。その焦りから選手を必要以上に追い込んでしまった時期もあった。

 「練習を頑張っているのにけがをしてしまう学生が増えた時期がありました。驚異的に頑張る選手を練習量の基準にしてしまうとみなパンクしてしまうのです。それで、7割の部員ができるような練習をすると空気が変わりました。1~2か月すると、自然と全体の力も上がっていくのです」

 圧倒的な強さでV9ロードを駆け抜けてきた。理想の監督像はあるのか。

 「理想はないですね。あえて言えば『無知の知』。私自身が知らないことがたくさんあると自覚して新しい自分を絶えず作っていく。監督を辞めるまでその途上でしょう。それに監督一人じゃ何もできません。多くの人から協力を得られるような力を持っていたいな、と思います」

 チームに「完成形」はない。絶えず、変化していくのが「常勝軍団」だ。

 「前年に優勝したからといってその『コピペ』では意味がない。前年のチームに追いつき、追い抜く。そのためには自立型の組織にしなくてはならないのです。年々、他大学から研究されて四面楚(そ)歌、丸裸状態ですよ。今季も徹底的に分析してくるでしょう。ですから、接戦になります。でも、それも面白い。今季も良い挑戦になると思います」

 ◆岩出 雅之(いわで・まさゆき)1958年2月21日、和歌山県新宮市生まれ。60歳。和歌山県立新宮高卒業後、日体大に進学。ラグビー部でフランカーとして活躍し、78年度選手権優勝の原動力に。翌年度、主将就任。卒業後、県教委、公立中、高校に勤務。県立八幡工では7年連続で花園出場に導く。高校日本代表コーチ、同監督を歴任後、96年から帝京大で指揮を執る。2010年の選手権で東海大を破り、創部40年目に初優勝。18年まで9連覇中。主な著書は「負けない作法」(共著、集英社)、「信じて根を張れ! 楕円(だえん)のボールは信じるヤツの前に落ちてくる」(小学館)など。

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