【ロッテ】金森栄治1軍打撃コーチ、育成論語った

新生・井口ロッテのキーマンとして6シーズンぶりに現場復帰となる金森栄治1軍打撃コーチ(61)が「スポーツ報知」のインタビューに応じた。貧打解消に向けた打撃改革、ドラフト1位・安田尚憲内野手(18)の育成論などを語った。(聞き手・長井 毅)
―井口政権入閣の背景は?
「一緒にやりたかった。まな弟子とか、そういうのじゃないですけど井口監督を胴上げしたい。それと、野球の基本、正しい理論を伝え残したいと思った」
―コーチを引き受けた時には「不安」な面もあった。
「責任を感じますよね。重大なことになったなと。だから怖かったですよ。考える時間はあったんですけど、プロ野球界からだいぶ離れていたので大丈夫かなと」
―ギリギリまで捕手寄りでボールを捉えようとする「引き付け打法」を伝授し、ダイエー時代の井口(現ロッテ監督)を開眼させた。指導方も実にユニークだ。日常生活や他のスポーツから得た打撃向上のヒントをかみ砕いて選手に説明する。これまで荻野、井上、岡田らを育て上げた。
「何でも野球に結びつけてしまうんですよ。卓球でバックハンドを打つ時に腕や肘はどうなってますか? 張本(智和)君、水谷(隼)君、(伊藤)美誠ちゃん、(平野)美宇ちゃん、石川(佳純)さん、(福原)愛ちゃん、みんなそうですよね。卓球だと何でバックハンドは体の前で打つのかを考えたら、一番力が入るからだと思う。腕が伸びたところでは力が入らないからですよ。『ぐッ』っと押し込む力ですよね。相撲でも鉄砲、すり足は何で一緒に手足を出すか、それは力を出しやすいから。身近なところにヒントはある。それを理解してもらいたい。監督が現役の時も同じような話をしていました」
―「引き付け打法」について。
「どこまで引き付ければいいのかというところ(が問題)です。引き付け過ぎたら差し込まれる。引き付け過ぎてファウルになることもある。だから粘る時はそうすればいい。腹八分目、くらいがいい。そうすればボールを処理しやすいミートポイントで打てるようになると思うんです」
昨季のチーム打撃成績は打率2割3分3厘、12球団ワーストタイ95本塁打、455打点。貧打解消のために昨秋のキャンプから、低めの球を捨てて、肘の高さを打つ意識をナインに浸透させてきた。
「選手には『ステーキはどこが一番うまいんや』と聞きます。ど真ん中じゃないかと。『多分、お金持ちは一番うまい真ん中から食うぞ!』ってね。ストライクゾーンも真ん中のおいしいところを打った方がいいんじゃなかと。外からじゃなくて。スイカを切っても、てっぺんから食べるでしょう。野球でいうと高め、皮に近いところではない。こじつけみたいなものかもしれないですけど、そんな例えも大事なんです。だから僕は長打が多い高めを打った方がいいと思うんですよ」
―具体的な数字の目標は。
「数字は後からついてくると思う。数字ばかり追いかけるよりもまずはしっかりとした基本を身に付けて一人一人がプロでやっていくための体力、気力、心、人間力。順番から言うと『体・技・心』というか。プロのレベルとして作り上げてもらわないと。プロの体力をつけるには我慢しないといけない」
―新人選手で気になる選手は?
「みんな気になりますよ。バラエティーに富んでいる。ドラ1の安田はスケールがでかい。体も大きいですし、よくなっていくと思う」
―安田本人は「将来的に30本を目指したい」と話している。
「いいですね。十分いけるんじゃないですかと思いますよ」
―松井秀喜氏を参考に、なるべく捕手寄りで引き付けて打とうと心掛けているようだが。
「お手本にしてやってもらえればいいと思う。他の選手は誰もマネしようとしていない。なぜだかわかります? (松井氏の打ち方が)すごいシンプルだからマネできない。外見だけだと、タレントが着ている服やアクセサリーをマネするのと同じ。もっと大事なのは基本を着実に身に付けて、基本通りにスイングしているところです」
―安田も見習うところが多い。
「松井のマネをしたいというのはすごい。じゃあどこをマネするんだと普通の人は思う。シンプルにああやって打つためには下半身でボールを捉えて、下半身でテイクバックを作っていかないと打てない。これは一番大事なことだと思う。目に見えない部分が大事」
―安田もそうやって育ってほしい。
「まずプロとしての体力をつけて、我慢をして一流の辛抱をして打席でプロの技術を発揮してもらいたい。打つには我慢が必要。技術が身についたら我慢ではなくなる。だからボール球を振らなくなる。いい打者はボール球振らない」
―いい打者の定義は。
「僕らの時代だと落合さんですね。ボール球を振らない。ボール球を振る打者と振らない打者の違いを見つけてもらいたい」
―冒頭の「正しいことを残す」につながる。
「こういうことをやっていれば、結果は後からついてくるぞというもの。正しい失敗というか、次につながる納得する打撃ができるか。落合さんは凡打を打っても自分のスイングができているから気にしない。打ってる打者は自分のスイングをする。僕は試合の時に『ヒット! ヒット! ヒット!』(が欲しい)と思って打席に入っているんですよ。達人は自分のスイングをする。そしたらヒットになる。長打になる本塁打になる(ところが違い)」
―ボール球に手を出さないのは自分のタイミングで打てるから?
「そう思います。それが辛抱だと思う」
―1年目はまず我慢が必要ということ。
「結果ばかり追いかけるとね…。急がば回れじゃないけど着実にやってほしい。勉強で言えば、『あ・い・う・え・お』を覚えて、(算数の)足し算、引き算できたら九九を覚えるようになる。今度は割り算。それができれば分数計算。段階を踏んで少しずつ身に付けていくことが大事。それを結果ありきでいくと、結局はその場しのぎ。それじゃあ、長続きしないです。一歩ずつ進んでいってもらいたい。両親にあれだけの恵まれた体格に生んでもらって育ててもらって。それを十分に生かせるようにしてもらいたい」
―既存戦力の底上げも必要だ。
「体の力。足の速さ、瞬発力のある選手が力を生かせるようしたい。力がない選手に本塁打を打てといっても無理なんです。自分の力をフルに出しても本塁打にならない。よっぽど、角度とかよくてスタンドまで行く時があるかもしれないですけど。自分の力を理解してもらいたい。まずは自分を知ることが大事。私たちがしっかり見て話しながらやっていくことも大事。その人なりの力をフルに発揮してもらえれば。みんながレギュラーを取れるわけではないのでね。でもみんなが戦力。自分の特徴を生かしながらチームの力になることが大事ですよ」
―卓球など他のスポーツや日常生活から打撃のヒントを得ようと思った理由は。
「僕はヒット500本、本塁打も25本くらいしか打っていないんで、日常生活で感じた体の使い方を伝えることが選手にとって理解しやすいのかなと思った。女性がハンドバックを肘のところにかけて持つのはなぜだと思います? それが一番楽だからです。楽ということは体の力が一番伝わっているということ。そういうことも一つの例ですよね。だから体から手が離れたらだめなんですよ。最短で出てこないといけない。逆に投手は打者から一番離れている外角低めに投げなさいというんですよ。投手の基本ですよね。打者からすると、(外角は)一番体の力を入れづらい。なおかつ目から遠い、体から遠いから当てづらい。だから外角に投げなさいと言われる」 ―「正しいことをやっていると結果はついてくる」というのが持論。究極の目標は後生にも残せる「打撃論」を伝えること。今後も分かりやすい指導を心掛けていく。
「正しくできない人もいるけど、そういう意識を分かってもらいたい。そうしたら指導者として、子どもたちに正しいことを伝えられると思う。子供に正しい体の使い方、基本を指導ができると思う。そういう意味でも分かってもらいたいなと思う。子供が一番いいスイングをする。理解させて、野球の指導に生かせると思う。感覚のことを言葉で伝えるのは難しい。だから日常の動作、行動で伝えられたらストンと落ちるのではないかなと思っています」