第17回受賞者(2015年) ロッテ・今江敏晃

第17回受賞者(2015年) ロッテ・今江敏晃
 プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の第17回受賞者が、ロッテ・今江敏晃内野手(32)に決定した。2006年から障がい者野球チーム「群馬アトム」と交流を始め、試合に招待。08年からは千葉の児童養護施設などを毎年訪問している。また、11年からは東日本大震災の復興支援として福島・いわき市の小、中学校を訪問するなど、長期間、多岐にわたっての活動が評価された。
 10年間、苦難に立ち向かう人々へ勇気を与えてきた今江に、受賞の報が届いた。「表彰されるためにやってきたことではないけれど、賞をいただける活動ができて、うれしいです」。謙遜しつつも、トレードマークの笑顔がはじけた。

 06年オフ、身体障がい者の野球チーム「群馬アトム」と交流を開始。当時、プロ5年目の23歳だった。10年からは1打点につき1万円をNPO法人「ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ」に寄付。現在303万円を贈呈するなど、若い頃から社会貢献に対しての意識が高かった。

 きっかけは一人の高校生だった。05年、日本シリーズMVPに輝くなどブレイクしたものの、翌年は不振で苦しんだ。8月だった。何気なく見ていた日本テレビ系「24時間テレビ」で、「群馬アトム」に所属する斎藤健太郎さんが、右半身が不自由ながら投手を目指し、何度転倒しても練習を続ける姿に感動した。

 「自分は五体満足で野球しているのに『何を悩んでいるんやろう?』と考えさせられた。片方の足がなかったり、半身不随の人がいて…それでも、すごく楽しそうに…。『俺の悩みなんてちっぽけだな』と思いました」

 すぐに妻・幸子さんと手紙を書いた。「感動、勇気をいただけた。ぜひ交流させてもらえませんか?」。その年の11月、群馬・伊勢崎市のグラウンドで一緒に練習して以降、本拠地・QVCの試合に招待するなど、「群馬アトム」との交流は続いている。当時、16歳だった斎藤さんも今では社会人。「僕がお兄ちゃんのようにずっと接してくれる。初めの2、3年は招待した試合で全部、ヒーローになった。不思議な力ももらっているんです」

 被災者への強い思いもある。11年の東日本大震災で当時、住んでいた浦安市の自宅が液状化の被害を受けた。震災被害の深刻さを知り、福島・いわき市出身の球団スタッフがいたこともあって、いわき市の小中学校訪問を始めた。「お金を出すことも大事かもしれないけど、『一緒に頑張っていこう』というのがモットー。とにかく続けること、会いに行くこと。勇気を与えに行く立場ですが、人と触れ合うことで逆に勇気をいただく。お互いに支え合う形です」

 障がいを持つ人と一緒に活動する「スマイルプロジェクト」も立ち上げた。その中の一つに、ペットボトルのキャップ収集がある。キャップの選別作業をすることで賃金を得ている身体障がい者の元へ送るのだ。「彼らにとっては(作業が)生きがいになる、と聞いた。頑張ってお金を稼ぐことで『社会に出ているんだ』と考えているようです」

 一緒に頑張ることを念頭に活動を続けているが、野球で勇気を与えることが大前提だ。「まずは野球で成績を残さないと、何の示しもつかない。頑張っている姿を見て『僕たちも頑張ろう』と思ってもらえれば…」。これからも希望を届け続けるつもりだ。(宮内 宏哉)

 ◆今江 敏晃(いまえ・としあき)1983年8月26日、京都府生まれ。32歳。2000年、PL学園2年夏に甲子園出場。01年のドラフト3巡目でロッテに入団。05、10年の日本シリーズMVPを獲得。05年から4年連続でゴールデン・グラブ賞。通算1411試合出場、打率2割8分4厘、93本塁打、637打点。180センチ、89キロ。右投右打。既婚。年俸2億円。

 ◆選考経過

 17回目を迎え、ノミネート選手の活動期間も10年超が目立ってきた。社会貢献活動への意識が根付いてきた中で、各委員のテーマは「継続性」と「活動の幅」。佐山和夫委員は連続ノミネートされた巨人・内海、村田、杉内、阪神・岩田や今江に注目。中でも「4種類の違った社会貢献を行っている」と今江を評価した。

 長尾立子委員は「続けるところに非常に大きな意義をもっている」と、11年もの活動期間を持つ杉内と中日・荒木を推薦。「杉内さんは骨髄バンクという狭い範囲かもしれませんが、非常に特色のある活動」と関心を寄せた。

 候補が絞られていく中、長嶋茂雄委員の文書が読み上げられた。今江、岩田の名を挙げ、特に今江については多地域にわたる活動、東日本大震災の被災者支援も評価。「年数、活動の広さは評価してよいと思います」と最有力に推薦した。

 最終的には今江、荒木の2人に絞り込まれ、今江の受賞で各委員の意見が一致。平尾昌晃委員が「毎年毎年、候補だった。(いつ賞を)取ってもいい、と思いながらここまできた」と話すなど、活動の期間、幅広さが最大の決め手となった。

 熊崎勝彦委員が「尊い活動ばかりで、この賞は2、3人ぐらい選んでもいい」と話すなど、複数受賞案も飛び出した選考会。早川正委員は「今年の選考で甲乙つけがたくても、来年に(活動実績は)引き継がれる」と言い、社会貢献を行う選手たちの活動の継続を願い、締めくくった。

 ◇選考委員(敬称略・順不同) 熊崎勝彦(プロ野球コミッショナー)、長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)、佐山和夫(ノンフィクション作家)、長尾立子(全国社会福祉協議会名誉会長)、平尾昌晃(歌手、作曲家)、早川正(報知新聞社代表取締役社長)

 ◆ゴールデンスピリット賞 日本のプロ野球球団に所属する人の中から、積極的に社会貢献活動を続けている人を表彰する。毎年1回選考委員会を開いて、球団推薦と選考委員推薦で選ばれた候補者から1人を選定する。欧米のスポーツ界では社会貢献活動が高く評価され、中でも米大リーグの「ロベルト・クレメンテ賞」が有名で、球界での最高の賞として大リーガーの憧れの的になっている。日本では試合での活躍を基準にした賞がほとんどで、球場外の功績を評価する表彰制度は初めて。いわば「球場外のMVP」。受賞者にはゴールデントロフィー(東京芸術大学名誉教授・絹谷幸二氏作製のブロンズ像)と阿部雄二賞(100万円)が贈られる。また受賞者が指定する団体、施設などに報知新聞社が200万円を寄贈する。

 ◆阿部雄二賞 2001年4月9日、本賞を第1回から協賛している株式会社サァラ麻布の代表取締役社長・阿部雄二氏が逝去。同氏の遺志として3000万円が報知新聞社に寄贈された。報知新聞社はその遺志を尊重し、長く後世に伝えるため「阿部雄二賞」を創設した。

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